還暦を過ぎてから、目が霞む様になった。
メガネが合わなくなって、視力が落ちたのだろうと思っていた。
メガネのレンズを替えてもらおうとメガネ店に行って検眼をしてもらった。
レンズの度数を上げても、視力は0.5くらいまでで、それ以上、上がらないと言われた。
つまり、メガネでの視力矯正は既に限界で、加齢による白内障の疑いがあるとのこと。
白内障という病気があるということは知っていたが、自分とは遠い存在だと思っていた。
父母も含め、親戚に高齢者はたくさんいるが、白内障になったり手術したという話は聞いた事がなかったからだ。
それからしばらくして、遠くのものが二重に見える様になった。
どうやら白内障が進行しているらしい。
2021年1月に運転免許の更新をした。
矯正視力、両眼で0.7が合格ラインらしいが、何とかギリギリ合格した。
しかし、その後も視力が低下している自覚があったので、行きつけの眼科で診察を受けた。
案の定、すぐに手術することをすすめられた。
左右の目の手術を、1週間ずらして片方ずつするらしい。
手術日は、右目5月19日、左目5月26日に決まった。
2回の手術を同一月内にすると手術代を合算して、負担した高額治療費から一定額が控除された給付金が受けられるらしい。
それにしても、目の水晶体を取り除いて、人工レンズに置き替える手術と、説明は受けたが、そんな事が本当にできるのか、半信半疑だった。
最初の手術は利き目の右目からである。
手術日の3日前から感染予防の目薬を3時間おきに入れる。
手術当日は、手術1時間前に病院へ。
麻酔の目薬をさして1階の待合室で待機。手術室は、2階である。
呼ばれて、エレベーターで2階に移動。手術室の控え室で手術が始まるまでさらに待機。
患者は順番に手術室に入る。
私の順番は、二番目だった。
手術室に入り、歯科の椅子のような手術台に横になった。
血圧計、心電図、オキシパルスメーターを付けられた。
目の周りを入念に洗い流して消毒、殺菌をする。
その後、目の部分に穴の開いた布を顔に被せられて、手術が始まった。
医師が鉗子の様なものを持っているのが一瞬見えたが、その後は何も見えなくなった。
目の上を何かで覆われ、眩しいだけで映像は見えない。
とにかく、手術中は、両目を開けて、上の方で光っている部分だけを見つめる様に指示された。
角膜の横を切開して、そこから濁った水晶体を掻き出すらしい。たぶん、細いスポイトの様なもので吸い出しているのだろう。何やら機械の音が聞こえる。
終始、痛みは全くないので、何をしているのかは、想像をするしかない。
水晶体が取り除かれて、替わりの人工レンズを入れて終了。
手術は15分ほど、あっけないほど簡単に終わった。
手術が終わってすぐに自力で歩くことができる。
視界はぼんやりしているが、肉体的なダメージはない。
おそるおそる手術した右目で見てみると、確かに良く見える。
しばらく、控え室で休息してから、再び1階の待合室へ。
手術後、3日間は寝る時も保護用のゴーグルメガネを付けるとのこと。また、入浴も禁止。
無意識に手で目に触ってしまうことを防ぐためらしい。
朝・昼・夕・寝る前、1日4回の目薬が2種類。
朝・夕の目薬が1種類、しばらく点眼を続けなければならない。
手術後、帰宅。目は充血しているが、痛みもなく、手術した右目は裸眼でも良く見えるようになった。
しかし、手術をしていない左目は相変わらず近視で視力は0.05ほど。
左右の視力にギャップがあるため、普段通りの日常生活というわけにはいかない。
人は、情報の9割は目から入ってくるという。それだけに、両眼の手術が終わるまでの間は、とても長く感じた。
1週間後、2回目、左目の手術。
前回の経験があるため、リラックスして臨めた。
同じ手順で手術が終了。
1週間ぶりに、左右の目の視力が同じになった。
手術から5日後、新しいメガネを作って、やっとスッキリした。
感染症予防のために、事前、事後の段取りはいろいろあるが、確かに視力は劇的に改善する。
人工的なレンズを体内に入れると何らかの違和感があるのでは、と思っていたが、全く違和感はなかった。
手術の日を含めて10回ほど通院。
手術の前後、日常生活が不便になる。
数ヶ月間、断続的点眼。
費用は、国保で両眼10万円ほど。
最終的に、矯正視力は1.5になった。
新しいメガネをかけてから数時間は、世界がはっきり見え、何と世界は美しいのだろうと感動した。
それにしても、医学の進歩は、驚くばかりだ。